静かな個室で、山盛りの鴨が煮えていくのを待つ。冬の京都の、いちばん贅沢な時間。
「京の鳥どころ 八起庵 丸太町本店」は、1970年(昭和45年)に鴨川に面した京都・丸太町で創業した鳥料理専門店です。夜は鳥の水炊き、鶏と鴨のすき焼き、鳥会席が柱。昼は丼や御膳もそろいます。最寄りは京阪「神宮丸太町」駅です。
私が訪ねたのは2026年2月の夜でした。鴨料理を目当てにした京都の旅で、ふたりで鴨のすき焼きのコースをいただいています。ここでは、山盛りの鍋から一階の個室の静けさまで、冬の夜をゆっくり過ごした時間を紐解きます。
丸太町の店構え|灯りのともる暖簾をくぐるまで

その日は鴨川沿いからタクシーで向かいました。車を降りると、黒い格子と軒下の灯りが続く店構えが目に入ります。木の板に墨の文字で「八起庵」。濃い色の暖簾の脇には、品書きをのせた台が置かれていました。
格子窓の前の花入れには、芽吹きはじめた枝が活けてありました。2月の京都はまだ底冷えのする時期です。その冷えた空気のなかで、足もとを照らす橙色の灯りが、これから鍋を囲む夜の気分を静かに整えてくれます。
八起庵は百貨店などにも店を構えていますが、ここは創業の地に建つ本店です。品書きも営業時間も店ごとに異なるため、ここでお伝えするのは丸太町本店のことだけ。訪ねる前に、行き先が本店であることを確かめておくと安心です。
京の鳥どころ 八起庵 丸太町本店(きょうのとりどころ はちきあん まるたまちほんてん) 京都市左京区川端丸太町上ル東丸太町8 営業時間 昼 11:30〜15:00 / 夜 17:00〜22:00
八起庵とは|一代で築かれた、京の鳥料理専門店
京都で鳥料理の店を探すと、必ずといっていいほど名前の挙がる一軒です。公式の案内によると、創業は1970年。創業者が一代で築き上げた鳥料理専門店で、みずから吟味した脂ののった鶏と、こだわりの卵を使っています。
店が大切にしているのは「お客様に気分よく帰ってもらいたい」という一客一亭の心だそうです。料理ともてなしの両方にその心を宿す、と公式は記しています。半世紀を超えて続く理由が、この一文に表れているように感じました。
公式が三大人気メニューに挙げるのは、鳥の水炊き、鴨のすき焼き、鴨なんばです。水炊きは熟成させた鶏を大ぶりに切り、自慢のスープで炊いて自家製のポン酢でいただくもの。鴨なんばは、鴨の旨みに九条ねぎの甘みを重ね、京山椒で仕上げる名物うどんです。
正直にお伝えすると、私がいただいたのは鴨のすき焼きのコースだけです。水炊きや鴨なんば、昼の丼はまだ食べていません。それらは公式の情報としてご紹介し、味の話は鴨のすき焼きに絞ります。
一階の個室|静けさのなかで、鍋を待つ
旅先の夕食で落ち着けるかどうかは、料理と同じくらい席で決まります。この夜、通されたのは一階の個室でした。予約は19時ごろ。暖簾をくぐってから席に着くまで、店内は思っていたよりずっと静かでした。
個室は意外なほど広々としていて、隣の気配が気になりません。ふたりの会話と鍋の音だけが聞こえる、プライベートの保たれた空間です。旅の終わりに、ゆっくり話しながら食事をしたい夜にちょうどよいと感じました。
鴨川に面した立地ですが、個室からは川は見えませんでした。そのぶん、視線は自然と卓の上に集まります。公式によると総席数は50席。席の指定は希望に添えない場合もあるとのことなので、個室を望むなら予約のときに伝えておくとよいでしょう。
コースのはじまり|小さな器が、鍋の前の時間をつくる

鍋の店というと、最初から鍋が出てくる印象があるかもしれません。八起庵のコースは、小さな器から始まります。写真は、青い葉を描いた白い器に盛られた橙色の一品。豆腐のようになめらかな口あたりで、緑の薬味がちょこんとのっていました。
品名は控えそびれてしまいました。けれど、小さな一品につゆが張られ、器まで選ばれている。それだけで、このあとの鍋への期待が静かに高まっていきます。

続いて、蓋つきの器で茶碗蒸しが運ばれてきました。黒い盆に赤い匙が添えられた、端正な佇まいです。冬の夜に、温かい一品がうれしく感じられます。卵にこだわる店らしい流れでした。
飲みものは、お店の方にすすめていただいた赤ワインにしました。鴨の鍋に何を合わせるか迷ったら、すすめを聞いてみるのがよさそうです。
鴨のすき焼き|鍋の縁からあふれる、山盛りの鴨

鴨のすき焼きをいただくのは、この夜が初めてでした。運ばれてきた鉄鍋を見て、まず驚いたのはその高さです。鍋の縁に沿って鴨肉が幾重にも立てかけられ、中央はこんもりとした山。想像していたよりずっと迫力がありました。

赤身と白い脂の層がくっきりと分かれた鴨肉は、生のままでも美しいものです。頂には薄く切った生姜がのり、肉のあいだから青いねぎがのぞきます。公式も「鴨肉がたっぷり盛り込まれた贅沢な逸品」と紹介していて、その言葉どおりの姿でした。

火加減は、お店の方が見て仕上げてくださいます。鍋の縁から割り下がふつふつと沸き、肉の色が少しずつ変わっていく。こちらは手を出さず、いちばんよい頃合いを待つだけです。鍋の扱いに慣れていなくても心配はいりません。
いちばん記憶に残っているのは、鴨そのものの旨みです。割り下との相性がよく、噛めば噛むほど旨みが出てきます。九条ねぎとの組み合わせもよく、鴨の脂を吸ったねぎの甘さが、次のひと切れを誘いました。

量は2人前ですが、かなりのボリュームです。鍋のあとには〆があり、甘味はアイスでした。食べ終えるころには、体の芯まで温まっています。鴨料理を目当てにした旅でしたが、この一軒に来られてよかったと心から思えた夜でした。
メニューと価格|夜のコースと、昼の品書き
名店と聞くと、値段の見当がつかずに身構えてしまうものです。先に全体を知っておくと、旅の予算に組み込みやすくなります。以下は公式サイトに掲載された丸太町本店の品書きで、2026年10月時点の内容です。
| 夜のコース | 価格 |
|---|---|
| 鳥の水炊きコース | 9,900円 |
| 鶏のすき焼きコース | 8,250円 |
| 鴨のすき焼きコース | 11,000円 |
| 黒毛和牛:平井牛のすき焼きコース | 22,000円 |
| 鳥会席 梅 | 12,100円 |
| 鳥会席 竹 | 14,300円 |
| 鳥会席 松 | 16,500円 |
いずれも税込で、サービス料は別です。公式の店舗情報にはチャージ料10%と記されています。鳥会席は要予約で、季節ごとに内容が変わります。私がいただいた鴨のすき焼きは、この表の3行目にあたるコースです。
| 昼の品書き | 価格 |
|---|---|
| 京赤地鶏の親子丼 | 2,750円 |
| 京赤地鶏の親子丼とミニ鴨なんば | 3,630円 |
| 軍鶏丼 | 3,520円 |
| 軍鶏丼とミニ鴨なんば | 4,290円 |
| 庵弁当 | 3,080円 |
| 鴨しゃぶ御膳 | 4,400円 |
| 九折御膳[土鍋炊き込みご飯] | 5,500円 |
| 季節のおまかせ ミニ会席 | 7,700円 |
| お昼の鶏のすき焼き | 6,050円 |
| お昼の鴨のすき焼き | 8,800円 |
昼は丼や御膳なら数千円台から味わえます。ミニ会席とお昼のすき焼きはサービス料が別で、ミニ会席は要予約。鴨しゃぶ御膳と九折御膳は2026年秋の品書きです。名物の鴨なんばも昼の単品にあり、鳥の水炊きは昼も注文できます。
ラストオーダーは昼が14:00、夜が21:00。昼にコースをいただく場合は13:00までと早めです。価格と内容は変わることがあるため、訪ねる前に公式サイトで最新の品書きを確かめてください。
予約のこと|旅程が決まったら、席を先に
京都の夜は、行きたい店ほど当日では入れないものです。私は一休レストランで予約して伺いました。旅の日程が決まった段階で席を押さえておくと、その日の観光を時間いっぱい楽しめます。
予約の方法はほかに、公式サイトからのWeb予約と電話があります。公式の予約ページによると、11名以上は店へ直接問い合わせる形です。予約の時刻を30分過ぎて連絡が取れないと、キャンセル扱いになる場合があるとも案内されています。
定休日は公式では「なし」。2026年10月から2027年3月までは、年末年始を除いて営業すると案内されています。冬は鍋の恋しい季節です。個室でゆっくり過ごしたい方は、早めの予約をおすすめします。
食後は鴨川へ|丸太町の夜を歩いて帰る
おいしい食事のあと、すぐに車に乗ってしまうのは少し惜しい気がします。この夜は店を出て鴨川に戻り、川べりをしばらく散歩してから帰りました。鍋で温まった体に、2月の川風がかえって心地よく感じられます。
店から鴨川までは、歩いてすぐです。水の音を聞きながら川べりを歩いていると、さきほどの鴨の余韻がゆっくりと落ち着いていきます。食事と散歩をひと続きにできるのが、この立地のよいところです。
昼に訪ねるなら、丸太町通を東へ進んだ先の岡崎と組み合わせるのもよいでしょう。平安神宮を歩いた帰りに、遅めの昼食や早めの夕食で立ち寄る流れです。観光のあとに腰を落ち着ける一軒として、覚えておくと旅が組みやすくなります。
この旅の宿は、二条のモクシー京都でした。鴨川のそばに泊まりたい方には、私も滞在したことのある二条大橋のたもとのザ・リッツ・カールトン京都があります。川沿いを下って宿へ帰る夜は、きっと長く記憶に残ります。
結び|鴨を食べに、京都へ行く
京都の旅の目的は、寺社や庭だけではありません。ひとつの料理を目当てに行き先を決める。そんな旅も、この街ではよく似合います。私にとってこの冬の京都は、鴨のすき焼きを食べに行く旅でした。
山盛りの鍋が運ばれてきたときの驚き。お店の方が仕上げてくださる安心感。静かな個室で、噛むほどに広がる鴨の旨み。京都で鴨すきを味わいたい方、人目を気にせずゆっくり過ごしたい方に、まずおすすめしたい一軒です。
次に訪ねるなら、夜は鳥会席を、昼なら庵弁当か九折御膳をいただいてみたいと思っています。暖簾の灯りは、鴨川のほとりで今夜もともっています。次の京都の夜に、鍋を囲む時間をひとつ加えてみてください。
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アクセス|神宮丸太町駅から
最寄りは京阪鴨東線「神宮丸太町」駅で、駅を出てすぐの場所にあります。住所は川端丸太町上ル。川端通と丸太町通が交わる交差点から、川端通を北へ上がったところです。
駐車場はありません。車は周辺で駐車場を探すことになるため、電車かタクシーで向かうのが便利です。私は鴨川沿いからタクシーで向かい、帰りは鴨川まで歩きました。
基本情報|京の鳥どころ 八起庵 丸太町本店
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 京の鳥どころ 八起庵 丸太町本店 |
| 創業 | 1970年(昭和45年) |
| 住所 | 京都市左京区川端丸太町上ル東丸太町8 |
| 電話 | 075-761-5470 |
| 営業時間 | 昼 11:30〜15:00(ラストオーダー14:00、コースは13:00)/夜 17:00〜22:00(ラストオーダー21:00) |
| 定休日 | なし(2026年10月〜2027年3月は年末年始を除き営業) |
| 総席数 | 50席 |
| 駐車場 | なし |
| クレジットカード | 利用可 |
| チャージ料 | 10% |
| 予約 | 一休レストラン、公式サイトのWeb予約、電話 |
| 最寄り駅 | 京阪鴨東線「神宮丸太町」駅 |
※店舗情報と品書き、価格は、京の鳥どころ 八起庵の公式サイトの公開情報に基づきます(2026年10月時点)。料理の内容は2026年2月の訪問時のものです。営業時間や価格、季節の品書きは変更となる場合があるため、最新情報は公式サイトをご確認ください。

