路地の奥に、百年近く花街の舞を見守ってきた舞台がある。
格子戸と提灯が続く先斗町の路地に、ひとつだけ大きな洋風の建物があります。先斗町歌舞練場です。先斗町の芸妓・舞妓が舞を披露する劇場で、春は「鴨川をどり」、秋は「水明会」の舞台になります。
私は京都に行くたび先斗町を歩き、この建物の前を何度も通ってきました。ただ、公演そのものはまだ観ていません。この記事では、建物について現地で見たことと、公演について主催の先斗町歌舞会が公開している情報とを、分けてお伝えします。
先斗町歌舞練場とは|昭和2年に完成した、花街の劇場
先斗町歌舞練場は、大正14年(1925年)に着工し、昭和2年(1927年)に完成しました。設計は大林組の技師、木村得三郎。大阪松竹座や東京劇場を手がけ、劇場建築の名手といわれた人物です。
建物は鉄筋コンクリート造の地上4階、地下1階。完成当時は「東洋趣味を加味した近代建築」と賞賛されたと伝わります。木造の町家が並ぶ路地に、この規模の近代建築が建ったこと自体が、当時の先斗町の勢いを物語っています。
屋根には、舞楽の蘭陵王の面をかたどった鬼瓦が据えられています。先斗町の繁栄を祈る守り神なのだそうです。路地からは見上げる角度になるため、三条大橋や鴨川の対岸から建物全体を眺めてみるのもよいでしょう。
公演のない時期は、舞踊や邦楽の発表会、演奏会、講演会などにも使われています。芸舞妓の舞台であると同時に、街にひらかれた劇場でもあります。
鴨川をどり|明治5年から続く、春の舞台

鴨川をどりは、1872年(明治5年)に創演された先斗町の舞踊公演です。明治の一時期や戦時中に中断したものの、戦後すぐに再開されました。かつては春と秋の年2回公演だった時期があり、京都の五花街のなかで最多の公演回数を誇ります。
現在は春のみ、例年5月に開かれます。舞台は二部構成で、第一部が舞踊劇、第二部が純舞踊。物語を追う楽しさと、舞そのものの美しさの両方に触れられる組み立てです。
昭和の初めには洋楽を取り入れたり、少女レビューを上演したりと、新しい試みも重ねてきました。ジャン・コクトーやチャップリンといった海外の著名人も魅了したと、公式の案内は伝えています。
5月に先斗町を歩いたとき、入口には「鴨川をどり」の赤い文字の看板とポスターが掲げられていました。足を止めて写真を撮る人、扉の奥をのぞく人。ふだんは静かな建物の前が、この時期だけは少し華やぎます。
観覧の基礎|席の種類と、お茶券のこと

鴨川をどりの席は、お茶券付特別席、特別席、普通席の3種類です。公演は1日3回。お茶券は、お茶席で一服いただくための券で、単独でも販売されています。
初めての方が迷うのは席の選び方でしょう。舞台を近くで観たい方、お茶席も体験したい方はお茶券付の特別席。まずは雰囲気を味わいたい方は普通席。目的に合わせて決めれば、大きく外すことはありません。
チケットは、公式サイトのチケット情報から申し込めます。発売の時期や申し込みの手順は年ごとに案内されるため、春の旅程が決まったら早めに公式サイトを確かめておくと安心です。当年の日程と料金は、記事末の基本情報に載せています。
水明会|秋、芸妓が磨いた芸を披露する
秋の10月に開かれるのが水明会です。先斗町の芸妓による伎芸発表会で、昭和5年から続いています。華やかな春のをどりに対して、こちらは日頃の稽古の成果を見せる、格式のある舞踊会です。
名前は鴨川の清流にちなむもの。以前は3月に開かれていましたが、秋の鴨川をどりが終了したのを機に、平成11年から10月の開催になりました。会期は鴨川をどりより短く、数日間に限られます。
席は指定席と自由席。オンラインで申し込む場合、指定席でも席の位置は選べず、決済後のキャンセルや変更はできません。届いた観覧引換証を印刷して当日持参する方式のため、申し込みの前に公式の案内を読んでおきましょう。
路地のなかの歌舞練場|公演のない日に、前を通る

歌舞練場があるのは、先斗町の北の端に近いところです。三条側から路地に入ると、ほどなく左手に淡い色のタイル張りの外壁が現れます。金文字の館名の上には、六角形の飾り窓。木と紙の町並みのなかで、建物の質感がはっきりと違います。
公演のない日は扉が閉じられ、建物は静かです。それでも前を通るたびに、ここで舞う人たちがこの路地で暮らし、稽古を重ねているのだと感じます。提灯の千鳥も、お茶屋の格子も、この舞台とひと続きのものです。
先斗町の歩き方や昼と夜の表情は、先斗町|千鳥の提灯が灯る、鴨川沿いの細い路地の歩き方に詳しく書いています。観覧の前後に路地を歩く時間を、ぜひ予定に入れてください。
観覧の前後に|先斗町で食事をする
舞台の余韻をそのまま食事につなげられるのが、この劇場のよいところです。歌舞練場を出れば、そこはもう先斗町の路地。鴨川に面した店が、歩いてすぐのところに並んでいます。
私がよく通うのは、歌舞練場から20メートルほど南の二番路地にある「先斗町 魯ビン」です。お造りと季節の皿、春から秋にかけては鱧鍋。公演の日は周辺の店も混み合うため、席は先に押さえておくことをおすすめします。
店の様子は先斗町 魯ビン|鴨川沿いの京町家で、季節の皿と鱧鍋を味わうに書きました。5月から秋口までは、鴨川納涼床が出る季節でもあります。
結び|いつか、客席から
何度も前を通りながら、私はまだこの劇場の客席に座っていません。看板を見上げ、扉の奥を想像するばかりです。だからこそ、次の春か秋には、切符を手に入口をくぐりたいと思っています。
花街の路地を歩き、舞台を観て、川のそばで食事をする。先斗町という街を、いちばん深く味わえる一日になるはずです。観覧が叶ったら、この記事にその体験を書き加えます。
もっと深く知る
- 先斗町|千鳥の提灯が灯る、鴨川沿いの細い路地の歩き方
- 先斗町 魯ビン|鴨川沿いの京町家で、季節の皿と鱧鍋を味わう
- ザ・リッツ・カールトン京都|精神を調律する、鴨川のほとり。静寂と雅が織りなす至高の物語
- SOWAKA(そわか)|八坂神社徒歩3分、築100年の数寄屋建築に泊まる祇園の静寂
アクセス|先斗町歌舞練場
最寄りは京阪本線「三条」駅で、6番出口から徒歩5分ほど。三条大橋を西へ渡り、一筋南へ下がって先斗町の通りに入ると、左手に建物が見えてきます。阪急京都線「京都河原町」駅からは徒歩10分ほどです。
JR京都駅からは、市バスで「河原町三条」まで行き、そこから徒歩5分ほど。地下鉄なら烏丸線から東西線に乗り継いで「三条京阪」駅へ向かいます。歌舞練場に駐車場はないため、公共交通機関での来場が基本です。
基本情報|先斗町歌舞練場
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 先斗町歌舞練場(ぽんとちょうかぶれんじょう) |
| 所在地 | 京都府京都市中京区先斗町三条下ル |
| 完成 | 昭和2年(1927年)。設計は大林組・木村得三郎 |
| 構造 | 鉄筋コンクリート造、地上4階・地下1階 |
| 主催 | 先斗町歌舞会 |
| 電話 | 075-221-2025 |
| 駐車場 | なし |
| 公式サイト | https://www.kamogawa-odori.com/ |
2026年の公演(年ごとに更新)
| 公演 | 日程 | 開演 | 料金 |
|---|---|---|---|
| 第187回 鴨川をどり(終了) | 2026年5月5日(火・祝)〜22日(金) | 12:30、14:20、16:10 | お茶券付特別席7,000円、特別席6,000円、普通席4,000円 |
| 第111回 水明会 | 2026年10月15日(木)〜20日(火) | 15:30(開場は30分前) | 指定席10,000円・8,000円、自由席5,000円 |
鴨川をどりは例年5月1日〜24日の開催ですが、2026年は上記の日程でした。2027年の日程は、発表されしだいこの欄を更新します。
※建物と公演の情報は、先斗町歌舞会(鴨川をどり公式サイト)および京都の観光協会の公開情報に基づきます(2026年10月時点)。筆者は公演を観覧しておらず、公演内容の記述は公式の案内によるものです。日程・料金・発売方法は変更となる場合があるため、最新情報は公式サイトをご確認ください。

