料亭の暖簾は、宿の暖簾になった。
四室だけの部屋で、できたての懐石が運ばれてくる。
金沢駅からタクシーで6分、近江町市場と兼六園まで徒歩10分以内の高岡町に、木造2階建ての静かな門構えがあります。つる幸は、金沢で長く愛された料亭「懐石つる幸」が2018年に閉店したのち、2025年11月7日に旅館「つる幸」と割烹「つる幸 知新庵」として生まれ変わった一軒。客室はわずか4室、すべて90㎡を超え、全室に温泉の露天風呂と専用のダイニングを備えます。
割烹で仕立てた一皿を、できたての温もりのまま、誰にも気兼ねせず自分の部屋で味わう。——そんな滞在を叶えてくれる一軒を、公式情報と滞在した人々の声をもとに、ひとつずつ紐解いていきます。
料亭が、そのまま宿になるということ

旅館の夕餉でいちばんもったいないのは、料理と部屋のあいだにある距離です。料理場で仕上がった一皿が、廊下と会場を経て卓に着くまでに、湯気と香りは少しずつ失われていきます。
つる幸はその距離を、宿のかたちごと設計し直しました。料理を最高の状態で届けるために部屋数を4室に絞り、各客室の内側に割烹と直結した専用ダイニングを置く。「割烹料亭で仕立てた一皿を、できたての温もりのままお部屋で」という言葉が、そのままこの宿の間取りになっています。
公式が名乗るのは「和オーベルジュ」。泊まるための宿に食事が付いているのではなく、食べるために泊まる宿です。金沢に少なかった富裕層向けの小さな宿として、開業からまだ日の浅い一軒です。
高岡町、鶴の宿る千年松の物語を継いで

宿が建つのは金沢市高岡町。金沢駅と香林坊のあいだ、松ヶ枝緑地に近い住宅と商いの混じる一角です。ここに長く暖簾を掲げていたのが料亭「懐石つる幸」で、外観などの姿はそのままに、2025年の秋、食と宿の新しい姿を纏いました。
公式が掲げる言葉は「鶴宿千年松」。鶴の宿る千年の松のように、加賀の食文化を紡ぎ、永く愛される宿でありたいという願いです。旅館の名も割烹の名も、料亭の名をそのまま継いでいます。
割烹の名に添えられた「知新庵」は茶室の名に由来し、その精神は「温故知新」。加賀百万石の雅と茶の湯の心で磨かれてきた加賀懐石を、この土地で伝承していく宿です。
幸聚、帰心、宵墨、慈白。ひと部屋ごとに趣の違う四つのスイート

4室はそれぞれ名前と趣を持っています。サウナを備えた95㎡の「幸聚」、90㎡の「帰心」と「宵墨」、そして専用エントランスとスチームサウナ、キッチンまで備えた100㎡のメゾネットの離れ「慈白」。どの部屋も寝室とリビング、ダイニング、温泉の露天風呂を持ち、和の趣に洋の心地よさが重ねられています。

ベッドルームはツインが基本で、3名以上はエキストラベッドでの対応です。小学生以下の子どもが泊まれるのは離れの「慈白」のみ。全室禁煙で、浴衣と基本のアメニティが備わります。

部屋を選ぶ基準は、広さよりも過ごし方です。ふたりで静かに食と湯に向き合うなら「帰心」か「宵墨」、サウナで整える夜まで欲しいなら「幸聚」、家族で、あるいは自分たちだけの入口が欲しいなら離れの「慈白」へ。4室しかないからこそ、どの一室にも理由があります。
滞在した人々の声には、客室と食事とホスピタリティが、国内外のラグジュアリーホテルに並ぶという感想が並びます。開業からの月日はまだ浅いものの、期待の高さがうかがえます。
部屋の露天風呂に、古都の温泉を湛えて

四つの部屋のすべてに、温泉を湛えた露天風呂があります。夕餉の前に湯につかり、食後にもう一度。夜の高岡町の空気を露天で感じながら、大浴場へ行く支度も、時間を気にする必要もありません。
公式は「古都の温泉が心を撫でるような豊かさを与え、時のゆらぎに身を沈めれば」と書きます。金沢の街なかで、部屋付きの温泉露天に入れる宿はまだ多くありません。それがこの一軒の、食と並ぶもうひとつの理由です。
「幸聚」のサウナ、「慈白」のスチームサウナは、湯と組み合わせて整える夜の道具になります。湯上がりはリビングで、ダイニングの卓が整うのを待つだけです。
部屋のダイニングに、割烹と同じ懐石が運ばれてくる

夕餉は、客室内のダイニングで割烹「つる幸 知新庵」と同じ料理をいただきます。北陸の旬を一皿ごとに丹精を尽くし、訪れた人のためだけに紡がれる四季の物語。秋は松茸、冬は加能蟹が主役になり、料理の内容によって料金が変わります。
厨房を預かる料理人は、京都吉兆で約12年の修行を積み、京都の名店やアマン京都の日本料理店で腕を振るってきた経歴の持ち主と公式が紹介しています。滞在した人々の声には、加能蟹を茹で、焼き、椀と部位ごとに仕立て分ける技への驚きや、金沢の食材について教わりながら食べる楽しさが並びます。

四季の移ろいを映す食材、手に取るたび趣の違う器、盛り付けの彩り。視覚と香りと温度で味わう懐石を、周りの客を気にせず、大切な人と向き合って過ごせるのが部屋のダイニングの価値です。
カウンター八席の知新庵で、料理人の手元を見ながら

宿泊者でなくても、割烹「つる幸 知新庵」の夕食は予約できます。席はカウンター8席と6名までの個室1室、夕食は18時から。中学生以上で大人と同じコースをいただける方に限られ、ドレスコードはスマートカジュアル以上、予約は4か月先の末日まで受け付けています。
カウンターでは、料理人の技を目の前で愉しめます。部屋のダイニングで静かに向き合う夜と、カウンターで手元を眺める夜。同じ料理でも、席が変わると体験が変わります。連泊なら、一夜ずつ選び分ける贅沢が叶います。
金沢の鮨店と組んだ特別な席の企画も公式に案内されており、料亭の系譜を継ぐ店として、食の企画は今後も動いていきそうです。
朝は部屋で静かに、あるいはカウンターで出来たてを

朝食は、宿泊者だけの楽しみです。客室内のダイニングで出来たてを静かに味わうもよし、知新庵のカウンターで目の前で仕立てられる一皿をその場でいただくもよし。公式はその両方を、宿泊者に開いています。
前夜の懐石の余韻を、朝の湯と朝の一皿で締めくくる。チェックアウトは11時30分と旅館としては遅めで、朝の露天風呂と朝食を急がずに済みます。朝を大切にしたい方は、宿泊予約の際に朝食の提供形態を確認してみてください。
四室の宿と、上手に付き合う

つる幸は大きな宿ではありません。館内にラウンジやバー、大浴場はなく、滞在は自分の部屋と割烹のカウンターのあいだで完結します。にぎわいを求める旅よりも、部屋に籠って食と湯に向き合う旅に向いた宿です。
小学生以下の子どもは離れ「慈白」のみ。割烹の夕食は中学生以上。全室禁煙で、駐車場は宿泊者専用の無料駐車場があります。近江町市場も兼六園も徒歩10分以内なので、朝の散歩と夕方の帰館を組み合わせた一日が組みやすい立地です。
開業からまだ日が浅く、企画や季節の献立は動いています。最新の案内は公式サイトで確認しつつ、この宿の「今」に出会う旅として訪ねるのが、いちばん自然な付き合い方です。
旅の日程が決まったら|松茸か、蟹か。季節が部屋を決める

この一軒を選ぶ理由が「部屋で味わう懐石」なら、予約で決めるべきは日付の前に季節です。秋の松茸、冬の加能蟹。献立の主役が変わるとき、この宿の一泊はまったく別の顔になります。
実務として、4室のうちどの部屋にするかと、子どもの有無で泊まれる部屋が決まります。夕食は料理内容で料金が変わるため、予約時に内容を確認を。知新庵のカウンターの夜を足すなら、宿泊とは別に食事の予約が必要です。
予約は、楽天トラベル・一休・Yahoo!トラベルを横に並べて総額で見比べるのが確実です。同じ客室でも、掲載されるプランと総額が違ってくるためです。
- 楽天トラベルは楽天ポイントを貯めて使える
- 一休は上質な宿に絞った掲載とタイムセール(編集部おすすめ)
- Yahoo!トラベルはPayPayとの連携が持ち味
わずか4室の宿は、埋まるときは一晩で埋まります。蟹の解禁から冬のあいだは特に。部屋のダイニングに運ばれてくる懐石の湯気を思い描いたなら、新幹線の予約と一緒に、この四室の一室を一休で先に押さえてしまいましょう。
結び|料亭の余韻に、泊まる

つる幸は、料亭の記憶をそのまま宿にした一軒です。暖簾をくぐり、部屋の露天風呂で湯を浴び、ダイニングに運ばれてくる懐石をひと皿ずつ受け取る。翌朝、カウンターで仕立てられる一皿をいただいて、近江町市場へ歩く。
金沢の食文化を伝えるために、宿は4室しか持たないことを選びました。その潔さの中にいる時間は、そう多くの人には巡ってきません。遠くへ行くことではなく、深く味わうこと。答えはもう見えているのではないでしょうか。
もっと深く知る
- 料理旅館 金沢茶屋|金沢駅から歩いて三分、加賀屋の割烹で夕餉をとる十八室の宿
- ホテル日航金沢|地下道を抜けて空へ、鼓門の街を見下ろす高層の夜
- 金沢 彩の庭ホテル|四つの庭と伏流水の湯屋、加賀野菜の朝餉で整う金沢の別邸
- ハイアット セントリック 金沢|鼓門の駅前、アートと加賀五彩に染まる旅の拠点を紐解く
- フォーポイント フレックス by シェラトン 金沢|マリオット系列で近江町市場徒歩5分の好立地をレビュー
アクセス|つる幸
JR金沢駅兼六園口(東口)のタクシー乗り場から約6分。近江町市場や兼六園までは徒歩10分以内で、金沢観光の拠点としても使いやすい立地です。車の場合は北陸自動車道の金沢東ICまたは金沢西ICから一般道で約15分。小松空港からは空港連絡バスで金沢駅まで約45分、そこからタクシーへ。駐車場は宿泊者専用で無料です。
基本情報|つる幸
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 旅館「つる幸」/割烹「つる幸 知新庵」 |
| 所在地 | 〒920-0864 石川県金沢市高岡町6-5 |
| 電話 | 076-210-5160(旅館・料亭共通・受付9:00〜19:00) |
| 開業 | 2025年11月7日(料亭「懐石つる幸」の跡地に再生) |
| 客室 | 全4室・全室温泉露天風呂付き。幸聚(95㎡・サウナ付)/帰心(90㎡)/宵墨(90㎡)/慈白(100㎡・離れメゾネット・専用エントランス・スチームサウナ・キッチン付) |
| チェックイン/アウト | 15:00/11:30 |
| 食事 | 客室内専用ダイニングで割烹と同じ懐石。朝食は客室または知新庵カウンター |
| 割烹 つる幸 知新庵 | 18:00〜・カウンター8席・個室6名1室・不定休・中学生以上・スマートカジュアル以上・予約は4か月先の末日まで・宿泊者以外も利用可 |
| 子ども | 小学生以下は離れ「慈白」のみ宿泊可(割烹は中学生以上) |
| 駐車場 | 宿泊者専用・無料 |
| 全室禁煙 | 割烹も全席禁煙 |
※館内施設・客室・ダイニング等の情報は、宿の公式サイトおよび公式発表に基づきます(2026年9月時点)。開業から日が浅く、献立・料金・企画は変更となる場合があるため、最新情報は公式サイトをご確認ください。金沢市の宿泊税が別途かかります。









