八坂庚申堂(金剛寺)|カラフルなくくり猿に、欲をひとつ預けて願う

石畳の八坂通を、八坂の塔を見上げながらゆるやかに歩いていくと、着物姿の旅人が行き交う白壁の町並みの一角に、ふいに色彩があふれる場所が現れます。朱色の門の向こう、境内を埋め尽くすのは、赤や黄色、水色にピンク——数えきれないほどのカラフルなお手玉のような御守。京都・東山の八坂庚申堂(やさかこうしんどう)です。

この愛らしい御守は「くくり猿」。ただ写真に収めて終わりではなく、願いをひとつ叶えるために、欲をひとつ我慢する——そんな、自分の心と静かに向き合うおまじないが、ここには千年を超えて受け継がれています。

そして境内を満たすこの色彩は、着物をまとった姿をいちばん美しく引き立てる背景でもあります。実際に歩いて感じた境内の空気に、公式の情報を重ねながら、この小さなお堂の楽しみ方をひとつずつ紐解いていきます。

欲をひとつ我慢して、くくり猿に願いを託す

レース着物で巡る初夏の八坂庚申堂。青もみじとカラフルなくくり猿が彩る、私だけの京都ダイアリー

境内のいたるところに吊り下げられたくくり猿は、手足をくくられて動けないお猿さんの姿をかたどった御守です。よく動き回るお猿さんのように、人の心もまた、欲につられて常に落ち着かないもの。その心を御本尊・庚申さんの霊力でくくりつけていただく——というのが、この御守に込められた意味です。

作法は、くくり猿に願いごとをしたため、そのかわりに欲をひとつ我慢すること。公式サイトにも「願いを叶える秘訣は、欲を一つ我慢すること、欲を意欲に変えましょう」と記されています。誘惑に心が揺れたら、庚申さんを念じて真言「おん でいば やきしゃ ばんた ばんた かかかか そわか」を唱える——そう教えられると、境内を埋める色彩のひとつひとつが、誰かの決意の証に見えてきます。

視界いっぱいに広がる八坂庚申堂のくくり猿。紅葉とポップな色彩が織りなすフォトジェニックな絶景

くくり猿は境内に吊るして奉納するだけでなく、持ち帰って手元に置くこともできます。一体一体が手造りで、体内には御本尊・青面金剛の御札が納められた、御分霊の入った御守。願いが叶ったら庚申堂へ送り、撥遣(念を抜くこと)とお焚き上げをしていただく流れまで含めて、ひとつの物語になっています。遠方で参拝が叶わない場合は現金書留での授与にも対応されているそうです。

「やさかこうしんどう」と読む、庚申信仰はじまりの地

爽やかな青もみじと八坂庚申堂のくくり猿。何度でも訪れたくなる、京都の鮮やかなパワースポット

八坂庚申堂は「やさかこうしんどう」と読みます。正式名称は大黒山金剛寺庚申堂(こんごうじこうしんどう)。天台宗のお寺で、御本尊は青面金剛(しょうめんこんごう)、日本三庚申のひとつに数えられ、庚申信仰発祥の地として親しまれてきました。

庚申(こうしん)とは、六十日に一度めぐってくる庚申(かのえさる)の日のこと。この夜、人の体の中にいる三尸(さんし)の虫が抜け出し、天帝にその人の悪行を告げ口に行くと信じられていました。そこで人々は虫が抜け出せないよう夜通し起きて過ごした——これが「庚申待ち」です。三尸の虫を食べてくださるのが青面金剛であったことから、庚申の夜にこの仏さまを拝む信仰が広がっていきました。

八坂庚申堂の愛らしい「見ざる・言わざる・聞かざる」。カラフルなくくり猿の下でほっこり和む瞬間

境内では、庚申さんのお使いである三猿——「見ざる・言わざる・聞かざる」の像にも出会えます。カラフルなくくり猿と三猿が同じ景色の中に納まる眺めは、このお堂ならでは。今も毎庚申日は御縁日として、護摩供やコンニャク封じ祈祷が行われ、参詣の人が絶えません。

参拝の記憶を、御朱印に

八坂庚申堂では御朱印を求めて訪れる方も多く、庚申信仰の地ならではの一体をいただけます。授与の形式や受付の状況は日によって変わることがあるため、参拝の際に授与所でお声がけください。

境内には、指先まで表情の異なる手捻りの指猿や土鈴など、手仕事の授与品も並びます。ひとつひとつ顔が違うお猿さんたちを眺めながら、旅の記憶を持ち帰る一体を選ぶ時間も、このお堂の楽しみのひとつです。

着物がいちばん似合う、カラフルな境内

秋の八坂庚申堂で色鮮やなくくり猿に願いを込める、着物姿での心ときめく京都旅

境内は決して広くありません。けれどその分、色彩の密度は京都でも随一。くくり猿の色とりどりを背景にすると、着物の柄がいっそう映えるため、東山を着物で歩くなら、ぜひ立ち寄っていただきたい場所です。実際に訪れた日も、色鮮やかな着物姿の方々が、くくり猿の前で嬉しそうにカメラを向けていました。

季節を選ぶなら、個人的にいちばんのおすすめは新緑の頃。青もみじの瑞々しさとくくり猿の色彩が響き合って、境内全体がひとつの絵のようになります。人気のスポットゆえ、混み合う時間帯は撮影が順番待ちになることも。とりわけ桜のシーズンは清水寺への参拝客と重なってにぎわいますので、順番を譲り合いながら、ゆったり構えて楽しみましょう。

木漏れ日が揺れる八坂庚申堂。お気に入りの着物で、カラフルなくくり猿と残す特別な思い出

そして、ここは信仰の生きているお寺です。まずは御本尊に手を合わせ、参拝を済ませてから、撮影を。そのひと呼吸が、写真にも表情にも、きっとよい佇まいを宿してくれます。

着物は、東山に着いてから纏うのがおすすめです。八坂庚申堂から徒歩五分ほどの京都着物レンタルmimosa高台寺店なら、すべての着物から選べてヘアセットまで込み。手ぶらで訪れて、そのまま石畳へ歩き出せます。あわせて、老舗和菓子店・甘春堂の和菓子作り体験を組み込めば、着物姿で京菓子をつくる、東山らしい一日が完成します。

八坂の塔から清水寺へ、東山さんぽの中継点

法観寺[八坂塔]

八坂庚申堂は、東山のシンボル・八坂の塔(法観寺)のすぐそば。塔を見上げる石畳の坂道と、カラフルな境内をセットで巡れる立地は、東山さんぽの中継点として絶好です。ここから産寧坂・二寧坂を上がれば清水寺へ、北へ下れば高台寺や圓徳院、祇園・八坂神社方面へと、歩くほどに景色の変わる道が続いていきます。

清水寺の参拝前に立ち寄って心を整えるもよし、坂を下りきった足休めに色彩を浴びるもよし。小さなお堂だからこそ、東山の一日のどこにでも、すっと組み込める。それがこの場所のいちばんの気軽さかもしれません。

結び|願いと欲を見つめ直す、小さなお堂

京都らしさ満点の八坂庚申堂のお堂。色鮮やなくくり猿に囲まれて良縁を願う心穏やかな時間

八坂庚申堂で過ごす時間は、長くても三十分ほど。それでも、くくり猿に願いをしたため、我慢する欲をひとつ選ぶあいだ、私たちは普段なかなか向き合わない「自分の心」と静かに対話することになります。カラフルな境内の写真とともに持ち帰るのは、じつは、少しだけ背筋の伸びた自分自身。東山を歩く一日の中に、この小さなお堂の時間を、ぜひ組み込んでみてください。

もっと深く知る

アクセス|八坂庚申堂(大黒山金剛寺庚申堂)

京都市東山区、八坂の塔のほど近く。市バス「清水道」バス停から徒歩五分ほどで、八坂通の石畳を歩きながら向かうことができます。祇園や清水寺からも徒歩圏内のため、東山の散策ルートに自然に組み込めます。境内に駐車場はありませんので、公共交通機関の利用がおすすめです。

基本情報|八坂庚申堂(大黒山金剛寺庚申堂)

項目内容
名称八坂庚申堂(正式名称:大黒山金剛寺庚申堂)
宗派・御本尊天台宗・青面金剛
所在地京都市東山区金園町390
電話075-541-2565
拝観時間9:00〜17:00
拝観料無料(境内自由)
くくり猿一体五百円(小型五百円・五連二千五百円)
アクセス市バス「清水道」下車 徒歩約5分
駐車場なし(近隣のコインパーキングを利用)

※拝観時間・授与品等の情報は、八坂庚申堂公式サイトおよび京都市公式観光情報に基づきます(2026年8月時点)。行事・授与内容は変更となる場合があるため、最新情報は現地・公式サイトをご確認ください。境内の空気や混雑に関する記述は、筆者が実際に訪れた際の体験にもとづきます。

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