百年前の賓客と同じ椅子に座れる、円山公園の迎賓館。
八坂神社の本殿を抜けて、円山公園へ。名高いしだれ桜のすぐそばに、ルネサンス様式の重厚な洋館が佇んでいます。長楽館——明治42(1909)年、「たばこ王」と呼ばれた実業家・村井吉兵衛が、国内外の賓客をもてなすために建てた迎賓館です。
名付け親は初代内閣総理大臣・伊藤博文。その直筆の扁額が、いまも2階の「喫煙の間」に掲げられています。2024年には、建物だけでなく多くの家具・調度品もあわせて国の重要文化財に指定されました。
この生きた文化財は、いま誰にでも開かれています。デザートカフェとして、憧れのアフタヌーンティーの場として、フレンチレストランとして——そして、わずか6室のホテルとして。公式情報と滞在した人々の声をもとに、百年の優雅への扉を順に開いていきます。
長楽館という階段|触れ方を、選べる文化財

このお館の魅力は、関わり方に段階があることです。まずはカフェでミルフォイユを。次は迎賓の間のアフタヌーンティーを。ル シェーヌのディナーで特別な日を祝い、そしていつか、6室だけの宿に泊まる。同じ建物に何度も通いながら、少しずつ深くへ進んでいける——そんな文化財は、京都でもそう多くありません。
ガラス越しに眺める展示ではなく、座り、触れ、味わい、眠ることができる建築。明治の賓客が過ごした空間を、そのままの用途で体験できることが、長楽館の最大の価値です。どの段から始めても、百年の優雅は等しく開かれています。
円山公園のほとりに建つ、様式が響き合う館

長楽館が建つ円山公園は、七代目小川治兵衛が手がけた約9万㎡の回遊式庭園です。春には京都を代表するしだれ桜が目の前に咲き、夏の緑、秋の紅葉、冬の雪と、公園そのものが四季の額縁になります。館を一歩出ればもう公園の中、八坂神社はすぐ隣、知恩院や高台寺、清水寺へも歩いて向かえる、東山観光の中心に位置しています。
観光の只中にありながら、公園の緑がほどよい結界となって、館の周囲には落ち着いた時間が流れている。迎賓館の立地として選ばれた理由が、いまも変わらず生きています。
外観はルネサンス、館内はロココにネオ・クラシック、アール・ヌーヴォー。ひとつの建物の中で世界の建築様式が響き合う空間には、皇族や各国の大使が集った百年前の華やぎがそのまま息づいています。設計を手がけたのは、明治期の日本で数々の洋館を残した建築家J.M.ガーディナー。
部屋ごとに意匠が切り替わるため、館内を移動するだけで小さな旅になります。天井の漆喰彫刻、暖炉のタイル、階段の手すり——どこに目を留めても、当時の職人の手仕事が返してくれる。写真に収めるより、まず座って見上げてほしい建築です。
文化財を夜ごと分かち合う、六室だけの宿

そしてこの迎賓館には、泊まるという最上の楽しみ方があります。洋館に隣接する新館の3・4階に設けられた客室は、全6室のみ。無垢の木材を用いた上質な設えで、窓の外には円山公園の緑、春には夜桜、夏には五山送り火と、東山の四季が広がります。最上階からは平安神宮まで見渡す眺望も。2025年6月には、世界のスモール・ラグジュアリー・ホテルズ(SLH)に加盟しました。
6室という規模は、贅沢の別名です。カフェの賑わいが引いた夜、この洋館をわずかな客だけで分かち合う——百年前の賓客と同じ立場に立てる、京都で唯一の宿といえます。
この特別な体験を、あなたの次の旅へ。

様式の異なる部屋のどこかに案内される、デザートカフェの午後

洋館の本館1・2階は、デザートカフェ長楽館として開かれています。ロココ、ネオ・クラシック——それぞれ様式も意匠も異なる6つの部屋のどこかに案内され、明治から使われ続ける調度品に囲まれてお茶をいただく。看板のミルフォイユをはじめ、パティシエが手がける季節のデザートが、この空間の格に応えます。
ロビーに置かれたウィーンの至宝・ベーゼンドルファーから、不定期にピアノの生演奏が館内へ届くのも長楽館ならでは。席は原則来館順の案内なので、ふらりと立ち寄れる気軽さも魅力です。どの部屋に通されるかは、その日のお楽しみになります。
明治の主賓さながらに味わう、京都屈指のアフタヌーンティー

長楽館の名を全国に知らしめているのが、アフタヌーンティーです。舞台は、かつての応接室「迎賓の間」。現存する日本の西洋館で最大規模と言われるロココ様式の空間に、バカラのシャンデリアが輝き、花とリボンの漆喰彫刻が天井を飾ります。この部屋はアフタヌーンティー専用にあてられており、3段スタンドの英国式ティーセットを、明治の迎賓館の主賓さながらにいただけます。
要予約(2名から)で、「予約が取れない」と語られるほどの人気ぶり。日程が決まったら早めの確保が鉄則です。場の雰囲気に合わせた装いで訪れる人が多い、京都でも指折りの「よそゆき」の午後です。
旧食堂の間で味わう、京都のテロワール薫るフレンチ

ランチとディナーは、かつての食堂を舞台にしたフレンチレストラン「ル シェーヌ」で。ネオ・クラシック様式の格調高い空間で、料理長が自ら仕入れる旬の食材を軸にした、京都のテロワール薫るコースが供されます。個室でのサプライズにも応えてくれる店で、プロポーズや記念日の舞台としても選ばれ続けています。
カフェの気軽さ、アフタヌーンティーの華やぎ、フレンチの格式。同じ洋館の中に、三つの異なる「優雅」が同居しています。
書斎のバーと非公開の間を巡る、宿泊者だけの夜

宿泊者だけの特権が、この館には幾重にもあります。かつて村井吉兵衛の書斎だった一室は、マデイラワインを100種以上揃えた宿泊者専用の「ライブラリーバー マデイラ」に。通常非公開の本館3階「御成の間」「長楽庵」も、希望すればスタッフの案内付きで見学できます。
重要文化財の調度に囲まれた専用ラウンジで過ごす時間、暖炉の音まで含めて非日常だったという滞在者の声。日中は多くの人が訪れるお館が、夜には自分たちだけの邸宅になる。この落差こそが、長楽館に泊まる最大の理由です。
シャンデリアに朝の光が差す、宿泊者だけの朝

朝食の舞台も、あの迎賓の間です。昼はアフタヌーンティーで賑わうロココの大広間で、朝はまだ誰も座っていない静けさの中、目覚めの一杯をいただく。シャンデリアに朝の光が差し込む時間帯の美しさは、宿泊者だけが知るものです。
食後は、開館前の円山公園へ散歩に出るのもおすすめです。観光客が集まる前のしだれ桜や、朝日を受ける八坂神社の朱。この時間帯の東山を歩けることが、円山公園に泊まるということの意味でもあります。
訪れる前に知っておきたいこと
正直にお伝えすると、長楽館は「気軽にふらりと全部を楽しめる場所」ではありません。アフタヌーンティーは2名からの要予約で、人気ゆえに希望日が取れないこともしばしば。カフェは席のみの予約を受けておらず、桜や紅葉の最盛期は待ち時間を見込んでおく必要があります。時間に余裕を持って訪れるのが、この館との正しい付き合い方です。
宿泊も、大浴場やプールを備えた現代的なリゾートとは性格が異なります。ここにあるのは、百年前の空間そのものと、6室だけの静けさ。設備の充実ではなく、時間と物語に価値を見出す旅にこそ、長楽館は応えてくれます。
旅の日程が決まったら|6室の迎賓館は、桜と紅葉で一晩で埋まる

百年前の賓客と同じ立場に立つ。この宿を選ぶ理由が迎賓館の夜にあるなら、予約の起点は日程そのものです。全6室の宿は、桜と紅葉の京都では一晩で埋まります。2025年にSLHへ加盟して国内外の注目が高まっているだけに、日程が決まったらまず客室を。
宿と一緒に押さえておきたいのが、迎賓の間の席です。宿泊とアフタヌーンティーを同じ旅で叶えるなら、客室を押さえてから席を確保する順番が確実。カフェは予約を受けていないため当日の時間に余白を。ル シェーヌで記念日を祝うなら、個室の相談もあわせてどうぞ。
予約は、楽天トラベル・一休・Yahoo!トラベルを横に並べて総額で見比べるのが確実です。同じ客室でも、掲載されるプランと総額が違ってくるためです。
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円山公園の重要文化財に泊まれる6室は、それだけ早く埋まる6室でもあります。夜にマデイラのグラスを傾け、朝に迎賓の間で目覚めの一杯をいただく京都を思い描いたなら、新幹線の予約と一緒に、この迎賓館の一室を一休で先に押さえてしまいましょう。
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結び|百年の迎賓館の、主賓になる

まずはカフェでミルフォイユを。次は迎賓の間のアフタヌーンティーを。ル シェーヌのディナーで特別な日を祝い、そしていつか、6室だけの宿に泊まる。どの段からでも、百年の優雅に触れられます。
夜、カフェの客が帰った洋館で、マデイラのグラスを傾ける。朝、迎賓の間で目覚めの一杯を。村井吉兵衛が賓客のために誂えた時間を、まるごと自分のものにできる滞在です。人生のどこかで一度、と思わせる宿が京都にはいくつかありますが、ここはその筆頭かもしれません。答えはもう、見えているのではないでしょうか。
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アクセス|長楽館
京阪本線「祇園四条」駅から徒歩10分ほど。四条通を東へ、八坂神社の境内を抜けて円山公園に入るとすぐ、しだれ桜の近くに洋館が見えてきます。知恩院・高台寺・二寧坂方面への散策の起点にも絶好の位置です。館には宿泊者向けの駐車場が用意されていますが台数限定のため、桜や紅葉の季節は公共交通機関の利用が安心です。
基本情報|長楽館
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 長楽館(ホテル長楽館/デザートカフェ長楽館/ル シェーヌ) |
| 所在地 | 京都府京都市東山区八坂鳥居前東入円山町604 |
| 建築 | 1909(明治42)年竣工・設計J.M.ガーディナー/2024年 国指定重要文化財(家具・調度品含む) |
| 客室数 | 全6室(新館3・4階/SLH加盟) |
| 主な施設 | デザートカフェ長楽館、アフタヌーンティー(迎賓の間・要予約)、フレンチ「ル シェーヌ」、ライブラリーバー マデイラ(宿泊者専用)、宿泊者専用ラウンジ |
| 駐車場 | あり(台数限定・宿泊者向け) |
※館内施設・客室・カフェ・レストラン等の情報は、公式サイトおよび公式発表に基づきます(2026年9月時点)。料金・営業時間・予約条件は変更となる場合があるため、最新情報は公式サイトをご確認ください。
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