世界を熱狂させた企業が生まれた家に、招かれるように泊まる数日を。
京阪の七条駅から鴨川を渡って5分ほど。静かな住宅街の一角に、アール・デコの幾何学模様をまとった風格ある建物が現れます。京都・鍵屋町——1889年、山内房治郎が花札の製造販売を営む「丸福」を興した、任天堂創業の地です。
1930年に建てられた旧本社社屋がその面影のままに残るこの場所は、2022年4月、建築家・安藤忠雄氏の設計監修によってホテル「丸福樓(まるふくろう)」として生まれ変わりました。客室はわずか18室。滞在中の食事もドリンクも含まれるオールインクルーシブのプランを軸とした、京都でも稀有な滞在スタイルで知られます。
「好きな時に、好きなように、好きなだけ」を掲げる、遊びの原点の地にふさわしい自由な滞在。この唯一無二のホテルを、公式情報と滞在した人々の声をもとに、ひとつずつ紐解いていきます。
「どこを観るか」ではなく「どう過ごすか」

京都には名所が数えきれないほどありますが、この宿を選ぶ人が求めているのは、たぶん観光ではありません。暖炉のある部屋で本を読み、ラウンジで好きなだけグラスを傾け、ライブラリーで少年少女の頃に戻る。予定を詰め込まない一泊にこそ、丸福樓は応えてくれます。
18室という規模、食事もドリンクも委ねられる滞在設計、そして建物そのものが物語であること。この三つが噛み合って生まれる「何もしない贅沢」は、大型ホテルでは決して再現できません。京都で過ごし方から選びたくなったとき、この宿の名前が浮かぶはずです。
鍵屋町という選択|鴨川を渡った先の、静かな京都

ホテルが立つのは、京都駅から車で6分ほどの鍵屋町。祇園でも東山でもない、観光の喧騒から一歩引いた住宅街です。だからこそ、館の中の時間が守られる。夜、格子の外から聞こえるのは、たまに通る自転車の音くらいです。
とはいえ不便ではありません。東本願寺の渉成園や京都国立博物館、三十三間堂へは徒歩圏。電動自転車の無料レンタルもあり、鴨川沿いを走って清水寺方面へ10分ほどの散策も気軽に叶います。静けさと機動力、そのどちらも手放さない立地です。
花札の「丸福」から、世界の任天堂へ

このホテルの最大の魅力は、建物そのものが語る物語です。昭和初期に流行したアール・デコ様式のレリーフや窓飾り、当時のエレベーター、館内の随所に残る「任天堂」の文字やトランプの意匠。創業者一族・山内家が実際に暮らした住居棟には、暖炉やステンドグラスが当時のまま残されています。
再生を託されたのは、安藤忠雄氏。事務所棟・住居棟・倉庫棟からなる既存の3棟を可能な限り復元し、そこに打ち放しコンクリートの新築棟を寄り添わせる——新旧が共存する安藤建築の真骨頂が、世界的ゲームメーカーの原点で実現しました。ホテル名は任天堂の旧社名「株式会社丸福」に由来します。
館内ツアーは、絶対に参加したい

滞在者のレビューで必ず語られるのが、スタッフによる館内ツアーの充実ぶりです。建築主に名を刻んだ山内貞さんの物語など、パンフレットには載らないエピソードとともに館を巡る時間は「絶対に聞いたほうがいい」と口を揃えて薦められる、この宿のハイライトです。
同じ廊下も、同じレリーフも、物語を聞いたあとではまったく違って見えます。チェックイン後の予定は空けておいて、まずこの時間から滞在を始めてください。開催時間はホテルにご確認を。
トランプの棟に散りばめられた、ひとつとして同じでない客室

客室棟は、この地で作られていたトランプにちなみ「スペード」「ダイヤ」「ハート」「クローバー」と名付けられています。全18室・12タイプは、間取りも内装も調度品もすべて異なる造り。旧社屋の様式を活かしたクラシカルな既存棟の部屋と、安藤氏の監修が色濃い新築棟の部屋(壁に直筆サインが残る部屋も)。
かつての客間の暖炉が残る部屋、バルコニーから東山を一望する部屋。カードキーではなくアンティークキーを受け取る瞬間から、泊まるたびに違う発見が待っています。
ルーフトップテラスと露天風呂の和室、四つのスイート

18室のうち4室がスイートです。新旧2棟にまたがるルーフトップテラス付きの丸福樓スイート、露天風呂と和室を備えたジャパニーズスイート。33〜79㎡と広さも表情も異なり、記念日の滞在や、この建築をより深く味わいたい旅に応えてくれます。

湯に浸かって空を見上げる時間、テラスで京都の夜気に触れる時間。18室しかない宿の中で、さらに希少なこれらの部屋は、日程が決まったら真っ先に確保したい一室です。

第二のリビングと呼びたくなる、ふたつのラウンジ

丸福樓の滞在の中心には、客室の延長のようにくつろげるふたつのラウンジがあります。歴史ある館のソファに沈み、ドリンクを片手に本を開けば、そこはもう自分の家のリビング。滞在プランは食事やドリンクの含まれる範囲が時期により異なるため、予約時に「どこまで含まれるか」をプラン内容で確かめるのが正解です。
滞在した人々の声で印象的なのは、「まるで我が家のように過ごせた」という種類の讃辞です。18室という規模の細やかな接客と、館に身を委ねて過ごせるラウンジの存在が、「おこもり滞在」の完成形をつくっています。
白木のカウンターで揚がる、京都の旬の天ぷら

2025年11月、館内の一角に新たな暖簾が掲げられました。「天ぷら まるふく」。白木のカウンター越しに、職人が京都の旬を一品ずつ揚げる天ぷら懐石の店です。

歴史的建築の中で揚げたてをいただく体験は、開店から間もない今、すでに評判を呼び始めています。カウンターの席数は限られるため、利用を考えているなら宿泊予約とあわせて相談しておくのが確実です。
夜だけ暖簾を掲げる、締めの一杯の「夜鳴きまるふく」

夜の丸福樓には、もうひとつの愉しみが待っています。夜だけ暖簾を掲げる「夜鳴きまるふく」。丁寧に引いた出汁をベースにした中華そばを軸に、鴨南蛮中華そばや海老担々麺、天かすそばなど、夜にやさしく寄り添う一杯が揃います。京都の夜を楽しんだあとの締めにも、旅の余韻に浸るひとときにも。宿泊者だけでなく外来でも立ち寄れる、粋な夜の設えです。
なお、開業時から親しまれた料理家・細川亜衣氏監修のレストラン「carta.」は、2025年に営業を終えています。いまの丸福樓の食は、天ぷらと夜の一杯——和の職人仕事へと表情を変えました。
鴨川を散歩してから席に着く、静かな朝

朝食も、オールインクルーシブのプランに含まれています。舞台はレストラン「carta.(カルタ)」。夜とは違う光の入る空間で、ゆっくりと一日を立ち上げる時間です。
早起きできたら、鴨川沿いを少し歩いてから席に着くのがおすすめです。観光客の姿がまだ少ない朝の川辺と、静かな住宅街の目覚め。京都の日常のほうへ半歩踏み込めることが、この立地に泊まる意味でもあります。
創業家みずから編んだ、遊び心のライブラリー

館内2階のライブラリー「dNa」は、創業家・山内家みずからが任天堂の歴史と文化を解釈した空間です。花札から着想を得たインタラクティブアート、関連書籍、そして歴代のゲーム機の展示。ファミコンやスーパーファミコンに再会して思わず声が出た、という滞在者の声が微笑ましい、大人のための小さな博物館です。
花札の店が世界を熱狂させる企業になるまでの120余年を、その始まりの場所で辿る。ゲームで育った世代にとって、これ以上の聖地はありません。
泊まらずに触れられる、見学ツアーという入口

全18室の宿泊者だけの空間ですが、泊まらずにこの建築へ入る公式の道もあります。体験予約サービスOtonamiでは、解説付きの館内見学ツアーと「天ぷら まるふく」のディナー、あるいはライブラリーでのカフェタイムを組み合わせた限定プランが提供されています。
まずはツアーで建物と物語に触れ、いつか泊まる日の楽しみにする——そんな二段構えの出会い方ができるホテルです。提供状況は時期により変わるため、最新の案内をご確認ください。
旅の日程が決まったら

丸福樓は独立した一軒のホテルのため、ホテル系クレジットカードの特典対象ではありません。予約の入り口は公式サイトから。オールインクルーシブのプランは一見高く映るかもしれませんが、夕朝食もラウンジもミニバーも含まれた総額です。素泊まりプランとの単純な価格比較ではなく、「含まれるもの」まで見て選んでください。
宿泊予約は、使い慣れた予約サイトの経済圏で選ぶのも賢い方法です。
- 楽天トラベルは楽天ポイントを貯めて使える
- 一休は上質な宿に絞った掲載とタイムセール(編集部おすすめ)
- Yahoo!トラベルはPayPayとの連携が持ち味
公式サイトの条件とあわせて、三つを横に並べて総額で見比べてみてください。
スイートを狙うなら日程が決まった時点で、「天ぷら まるふく」を組み込むならその相談もあわせて。予定を詰め込まない旅程で臨むのが、この宿を最も味わい尽くす方法です。全18室、世界からの視線を集める宿です。桜と紅葉の京都は一晩で埋まります。日程が固まったら、その日のうちに。

結び|遊び心の原点で、何もしない贅沢を

このホテルの本質は受賞歴ではなく、「遊び」に敬意を払い続けた一族の記憶と、それを未来へ手渡した建築家の仕事にあります。
暖炉のある部屋で本を読み、ラウンジで好きなだけグラスを傾け、dNaで少年少女の頃に戻る。京都で「どこを観るか」ではなく「どう過ごすか」を選びたくなったら、答えはもう見えているのではないでしょうか。

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アクセス|丸福樓
京阪本線「七条」駅から鴨川を渡って徒歩5分ほど、JR京都駅からは車で6分ほどの鍵屋町に位置します。東本願寺の渉成園や京都国立博物館、三十三間堂へも徒歩圏で、観光の喧騒から一歩引いた静かな環境です。電動自転車の無料レンタルがあり、鴨川沿いを走って清水寺方面へ向かうこともできます。
基本情報|丸福樓

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 丸福樓(MARUFUKURO) |
| 所在地 | 京都府京都市下京区正面通加茂川西入鍵屋町342番地 |
| 開業日 | 2022年4月1日(1930年竣工の任天堂旧本社社屋を再生/設計監修:安藤忠雄) |
| 客室数 | 全18室・12タイプ(33〜79㎡・スイート4室) |
| 主な施設 | レストラン「carta.」(細川亜衣監修)、天ぷら まるふく(2025年11月開業)、ラウンジ×2(対象プランで軽食・ドリンク込み)、ライブラリー「dNa」、電動自転車無料レンタル |
| 滞在スタイル | オールインクルーシブプランが軸(夕朝食・ラウンジ軽食/ドリンク・ミニバー込み)。素泊まり等の対象外プランあり |
| チェックイン/チェックアウト | 15:00/12:00 |
※館内施設・客室・ダイニング等の情報は、ホテル公式サイトおよび公式発表に基づきます(2026年8月時点)。料金・営業時間・プラン内容は変更となる場合があるため、最新情報は公式サイトをご確認ください。

